樹木医の手記

小樽市手宮公園桜再生プロジェクトの思い出【前編】

2016.06.14

樹木医の仕事で、思い出深い活動の1つに手宮公園の桜再生プロジェクトがあります。

 平成18年3月に小樽市役所建設部建設課(当時)から電話とファックスが届き、「手宮公園の桜の養生について相談したい人がいるので専門家(樹木医)として紹介しました。当人から連絡がいくと思うので直接話を伺ってみて欲しい。」とのことでした。 そして、その年の5月にお会いして話を伺いました。

 始めにお会いしたのはMさんと仰る方で、後に「桜再生プロジェクト」を立ち上げてこの活動をけん引されていった方でした。

 話の内容は、「手宮公園の桜の樹勢が年々衰え花数も少なくなってきましたので、なんとか元気な桜にしたい。」とのことでした。

花が咲かなくなった手宮公園の桜(ソメイヨシノ)・平成18年撮影

花が咲かなくなった手宮公園の桜(ソメイヨシノ)・平成18年撮影

 私はすぐに手宮公園史をはじめとした手宮公園、その桜に関したあらゆる資料を請求・収集し、現地の桜を観察して再生は不可能ではないと確信を持ちました。

 通常樹木の治療をするとなると専門家(樹木医)に一任されることになり、経費を見積って実行することになります。
 手宮公園には桜の数が概数で700本(当時)あると紹介されておりました。この桜全てを対象とした治療となれば相当高額な費用となります。また、治療期間も人手も相当数必要になります。
 これらのことをお話ししたところ、「高額なお金でなければ準備するあてがある。人手も地元の中学校の生徒を授業の一環として学校に提案し、採用してもらう見通しがある。」との返答を聞き、Mさんの桜再生にかける情熱もあって「それであれば私はコーディネートしましょう。」ということになりました。

 私は以前ずっと札幌市に居住しておりましたが、平成10年に個人的に縁があって小樽市に住宅を建てることになりました。当時も今も仕事の殆どが小樽市外にあった為、小樽市は私にはずっと不慣れな土地でしたが、小樽市内で何か私に出来ることで役に立ちたいと思う気持ちがありました。

 樹木医の仕事は私には糧であり、ボランティアの対象にはなりません。樹木医の報酬もおおよそ決まったものがあり、他の職種に比べれば安価ではないでしょう。
 このプロジェクトのコーディネート料は無料ではありませんが、私には前述したとおりの気持ちがありましたので、かなり安価な価格でお引き受け致しました。

<桜再生プロジェクトの実践>

 この治療に入る前に私は、「治療の期間は長ければ長いほど良いのだが、成果を見る為には最低6年間は続ける必要がある。1本の木に対して1行程5年+補充作業1年=6年が必要となるからである。途中でやめることがあれば全てが無駄になる可能性が高くなります。」という説明をしました。この時も必ずやり遂げるという意志と約束をMさんからいただきました。

 後ほど説明することになりますが、実際に桜再生プロジェクトとして実施された期間は、平成21年4月~平成23年10月迄(平成21年度~平成23年度迄)でした。

その実践内容は概ね以下のとおりでした。

1.治療対象本数110本
2.平成21年度①桜位置図(独自マップ作製)
②小樽市発注の剪定作業(国の緊急雇用創出事業の活用)
手宮公園の桜剪定作業・平成22年1月撮影
手宮公園の桜剪定作業・平成22年1月撮影
3.平成22年度①手宮公園の桜について学ぶ集会の開催
②手宮公園の桜(110本)の名札付
③学年別に桜の土壌改良実施(1)3日間
④学年別に桜の土壌改良実施(2)3日間
4.平成23年度①位置図、カルテ等の作成指導
②学年別に桜の土壌改良実施(1)3日間
③学年別に桜の土壌改良実施(2)3日間
土樹改良の実施・平成23年7月撮影
土樹改良の実施・平成23年7月撮影
5.その他
平成24年4月24日
手宮公園の桜について学ぶ集会
桜について学ぶ集会・北海道新聞平成24年4月25日掲載
桜について学ぶ集会・北海道新聞平成24年4月25日掲載