樹木医の手記

北の木もれ日「樹液流」

2017.3.27

<北の木もれ日「樹液流」 平成18年12月31日北海道新聞日曜版掲載>

 少し気が早いですが、木々たちの春の目覚めにちなんだお話をします。

木々は見えないところで春に向けての営みを始める

木々は見えないところで春に向けての営みを始める

 樹木が水を根から吸って樹幹を上昇する水の流れを樹液流と言います。一般に広葉樹では導管、針葉樹では仮導管と呼ばれる細胞を通って樹液が流れます。最近、樹木に聴診器を当てて「樹液が流れる音」を聞いてみるのが人気のようですが、実は、聴診器で聞くことはできません。

 樹木が水を吸い上げる速さは保水力が大きいとされる樹木でも一分間に一センチ程度しか上がらず、緩やかすぎて音が聴き取れません。また、液体がツルツルしたストローの中を高速で流れたとしても、そこに障害でも無ければ音はしません。

 ところが、実際に幹に聴診器を当ててみると、音が聞こえることがあります。木には振動を伝える性質があるので、風で枝が揺れる音や周囲の音が入り交じって聞こえているのです。この音のことを「環境音」と言います。雪解け時期にこの音を聞くと、あたかも春に目覚めた木々がゴーゴーと一斉に水を吸い上げている音のように聞こえてしまいます。

 春が近づいて気温が上がってくると根が活動を始めます。吸い上げられた水は、冬芽の殻をぬぎすてるときの大切な水分であり、冬眠から覚めたばかりの木々たちに栄養を与えるための重要な役割を持っています。樹液の量が十分であるか少ないかということは、その樹木が正常な生育ができるか大変重要な意味を持っています。

 音で聞こえてこない静かな営みには、そんなドラマが潜んでいます。

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